あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「おれは 気がついたら 職場のおじさんが おばさんの口内を掃除している光景を見ながら 冷麺をすすっていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
いちゃつきとかセクハラとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ――――
出会い
お昼休み、ぼくはいつも職場のおじさんとおばさんと3人でご飯を食べています。
おじさんは40代、小柄でよく日に焼けていて、なんとなく大工さんとか職人さんみたいな感じできっぷのいい気さくな兄貴です。
おばさんは4人ものお子さんを育てる肝っ玉かあさん。眉毛の角度が性格のすべてを表しています。
年齢はわからないのですが、おじさんより少し年上らしいです。
若手社員にしょっちゅう活をいれている剛の者で、よくおじさんにも蹴りをいれています。アットホームな職場だね。
ぼくがまだ今の職場に来たばかりのころ、このおじさんとおばさんがやさしく声をかけてご飯に誘ってくれました。

よう、かんちゃん。
社員食堂の使い方を教えてやるから、おじさんたちと一緒に食べようぜ。

ここの社食は種類が多くて
なかなかおいしいよ!

うわあい、ありがとうございます!
ぜひよろしくお願いします!!
右も左もわからない新人だったぼくは、はじめて見るものを親だと思い込むひよこのように、親切な彼らの後を喜んで追いました。
これがのちに続く悲劇の始まりだとも知らずに―――
夫婦漫才
こうしてぼくはおじさんとおばさんの仲間に加わり、いつも社員食堂で一緒にお昼を食べるようになりました。
この二人はもう10年以上一緒に働いているというだけあってとっても仲良しで、おじさんは自称おばさんの「ファン」で「ストーカー」なのだそうです。
好きすぎて食事中だんだん隣の席のおばさんに体が寄っていってしまうので、おばさんから「近いんだよ気持ち悪いなぁ!」「触るな!!」とか言われながら毎日頭をぶん殴られています。(ご褒美らしいです。人間って深いね。)
おばさんが会社を休んだりすると職場の上司が「今日嫁は休みなの(笑)?」とか言っておじさんをからかうほど仲良しですが、2人は夫婦ではなくそれぞれ家庭を持っていて、どちらも小さいお子さんの子育てに奮闘中なのだとか。
初めはぼくも

すっごく仲良しなんだなぁ!
職場で出会って性別も違うのにこんなふうにふざけ合える仲になれるなんてすごいなぁ!
と面白おかしく2人の夫婦漫才のような掛け合いを楽しんでいたのですが、彼らの行動は徐々にエスカレートしていくのです。
マッサージ地獄
いつものようにおじさんとおばさんの向かいに座って(ふたりは必ず隣同士に座るのです)一緒にお昼を食べ終えたあと、おばさんが

今日は疲れたな…
とつぶやきました。
するとすかさずおじさんが

マッサージでもしましょうか!
と言い出し、ぼくの目の前でおばさんの手の平をもみもみしはじめたのです。

…!
職場ではなかなかお目にかからない光景にぼくは一瞬たじろぎましたが、おばさんはいつものこと、というように平然と揉みしだかれています。
抵抗しないおばさんをみて調子に乗ったおじさんは、突然テーブルの下に腕をもぐり込ませ、おばさんの履いていたスニーカーをつかんで脱がせました。

…!!

なにすんのよ!

足もお揉みしようかなと思いましてね…
そのままおじさんはおばさんの足を自分の膝の上に乗せて、丁寧にもみもみし始めました。
100人以上が集まる社員食堂のど真ん中で、大胆不敵なセクハラに挑むおじさんにぼくは度肝を抜かれました。
え、あ、これ、止めたほうがいいの…?
おばさんの方をみると、彼女はハハハと高らかに笑いながらぼくに

ね?この人気持ち悪いでしょ?
と、言いました。
まんざらでもなさそうなおばさんに困惑しながらも、ぼくは

なるほどーーー!!
勇者ですねーーー!!
とだけ言って笑いました。
意気地なしのぼくがセクハラを止めなかったせいでしょうか。ここからおじさんの愛は暴走し始めるのでした。
おさかな地獄
ある日のお昼、おばさんは焼き魚定食を食べていました。

小骨が結構あるな〜
と、口に入ってしまった骨を出しながら頑張って食べていると、おじさんが

その骨、もらっていいですか??
と言いました。
何のことかわからず、ほけっとするぼくの前で、おばさんはさっきまでもぐもぐしていた魚の骨を口の中からつまみ出して、

ほらよ
とおじさんに手渡しました。
そしておじさんはそれを有難そうに受け取って、

頂きます!!
と、自らの口の中にその骨を放り込むではありませんか…!

ファッ!?!?
いったい、いま、なにが―――
目を白黒させているぼくと、「ばっかじゃないのー!!」と言いながら爆笑するおばさん、そしてなにかを成し遂げたような顔で幸せそうにおばさんが口から出した小骨を噛みしめるおじさん。
なんだ、この、職場は―――
薄れゆく意識の中、おばさんの

ね?この人ほんっと気持ち悪いでしょ?
という満足そうな声だけが聞こえました。
エブリデイプレイング
それからというもの、お昼の度にこのような光景が繰り広げられるようになりました。
ある時はおばさんが胸ポケットにしまっていたハンカチをおじさんが突如奪い取り、思いっきりハンカチの匂いを吸い込んでそのまま持ち去って行きました。
またある時は、風邪をひいたおばさんが淡を吐き出したティッシュを、おじさんが大事そうに持ち帰りました。
なんだ?君たち?それは、なんのプレイなんだね?ぼくは、何を見せられているんだね?ぼくは、いったい、なんなんだね………? ぼくは、ぼくは、ぼくは――――――
ジャーナリズム
中年の男女がいっちゃいちゃ絡み合う姿を見ながら食べるお昼がおいしいわけがない!!

ちぇえーい!
気色悪りぃやつらめぇ!
てめぇらなんざと飯が食えるか!
俺はこの船を降りるぜ!!
そう言って離れることもできたはずです。
だけど、ぼくはブロガーなのです。それはつまりジャーナリストってことです。ならば、このような特異な男女の生態をしかとこの目に焼き付け、克明にレポートするのがぼくの使命。
だからぼくは、おじさんに

今度3人で飲みに行こうぜ!
と言われたとき、

うわぁーい!!
行きまーーーっつつ!!
と元気いっぱいに答えました。
次回「飲み会編」へつづく↓

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